庄内地方 海坂藩の下級武士 井口清兵衛は妻を亡くし年老いた母と幼い娘二人の面倒を見る為に、お勤めが終わると
早々に帰宅する事で同僚たちから「たそがれ清兵衛」と、ささやかれている。
無精髭、丁髷の月代(さかやき)も、このありさま。何もかもが、辛うじて武士の面目を保っている。
当時の武士の恰好は、木綿の着物に袴姿。この映画は忠実に再現している。
黒澤 明の時代劇で使われる衣装は内容にも依るが、当時の衣類、小道具を用いる事にこだわった と聞いたことがある。映画「赤ひげ」で患者達の布団が干してあるシーンでは、藍型染の布団が一斉に並んでいるのには圧倒された。
清兵衛と幼なじみの朋代との、やりとりを見ていて、男女の愛の深さに感じ入ってしまう。
殆どの男女は これ程までの愛を持たずに人生を閉じてしまうのではないだろうか。
映画の後半
幕末期の混乱下、藩内部の紛争に依り追われる身になった武士を倒す為に
、若い頃剣術道場で第一人者だった清兵衛に白羽の矢が立ってしまう。
「これは藩命である」との命令に仕方無く応じた清兵衛。
夜中に唯一手元にある小振り刀を研ぐ姿。
人を殺める為に、自らを修羅の世界に追い込む殺気。
そして最大の見せ場、舞踏家 田中 泯が演じる侍の隠れ家に赴く。
泯さんの狂気は凄かった。薄暗い室内 微かな灯 餓鬼・修羅が交差する
悲しくも、なぜか切なく、そしてほのかに美しささえ感じさせるシーンだった。
思わず清兵衛に憧れる・・・。
清兵衛が仇討ちに赴く為、朋代に身支度を手伝ってもらう際に、彼が用意していた装束。一帳羅いだったのであろうが、厚手の茶色の羽織は真綿紬ではないだろうか?それにしても いざ!という時の為に仕立てた装束を これでお別れかもしれない・・と思いながら朋代が背後から掛ける着物に彼は手を通し、前に回って袴を結ぶ彼女。二人の姿は凛として美しい。
先日、息子を伴いある方と初めてお会いして少しお話をして帰宅。
後日息子はお母さんの事を古風な方ですね。と表されたことを聞いて「ええー?そんな風に見えたんやろか」と云いましたら、息子曰く「それわな、野武士みたいってことや。なにかあれば切腹しかねんってとこかな」
いえいえ とんでもないことですわ。あかんたれの、わたくしにはめっそうも無い事。
でも 武士の気概は好きです。清兵衛様のような、お方にお会いしたかった・・・・。